林業と設計・工務店の連携、その理論と実践。~国産材、第2世代へ挑め!~
【著者】
古川 大輔 Daisuke Furukawa
株式会社古川ちいきの総合研究所 代表取締役 / コンサルタント
■ニッポンの林業と建築の現実。~まず、森を見て丸太を買ってみる~
「俺、きこり初めて見た!」と林業現場で大工が話す光景は、私にとって衝撃でした。鮨職人で「初めて、魚を釣っている人をみた!」という人はいないでしょう。それほどに大工職人や設計建築士が「林業」と遠くなってしまったことが、「(中間的)木造住宅」衰退の根源的な理由であるとみています。自ら森に行き、丸太を買ってさばいてみる、そこからが始まりだと思うのです。全国の設計士・工務店の方々こそが、身銭を切ってその体験をすることで、全てが工業化され得ない木の世界の魅力を知り、自らに製品規格に携わり、新たな事業企画をしていくその連携と行動により新時代を切り開けて行けるものと、私は考えています。
■住宅業界における国産材・第二世代とは?
いま住宅業界は、新建材・住宅部材による組立産業化が進み、誇張したストーリー(物語性)と欲求性を中心にした住まい(暮らし)のプロデュース業が市場を席巻しています。施工側の利便性重視の時代が進む一方で、国産材利活用の発展のため林業家と建築家のつながりの大切さを訴え、M’S設計の三澤氏、徳島の林業家の和田氏を始めとする多くの諸先輩が啓蒙と運動をなされました。そして今や、大手ハウスメーカーも「国産材」という売りメッセージを打ちだす時代になりました。CLTやバイオマス等の木材利用の動きも含め、まさに国産材ビジネスの第二世代へと突入しています。そこで私は、木材技術の持続可能性を、あくまで事業を行う経営力の視点で国産材ビジネスについて振り返ることから始めたいと思います。
■理念と利益
木材自給率が激減したのち、第一世代(ここ20年と定義する)では、何故国産材が増えてきたのでしょうか。①自然素材系デザインの浸透 ②環境啓蒙やNPO団体等の発達 ③保育から利用への林業政策の転換と拡充 ④乾燥技術の向上と流通整備 ⑤国産材利用工務店の営業力向上、といった点が主な理由であると考えます。「地元の木で家を作る」「持続可能な森林づくりと住宅づくり」等、任意団体の活動が全国的に広がってから10年以上経つでしょうか。物語性を過度につくったために理念重視へ偏り、資金繰りが悪く経営が続かなかった団体、あるいは、掲げた理念が虚構でしかなく、利益重視で営業力強化のみに走ってしまう事業団体もありました。技術を残すための顧客をいかに獲得するか、また、算出した利益をどう再配分するかという経営視点に欠けておりました。まず根本に「利益なき理念は寝言、利益なき理念は寝言」という言葉を信条にすることが必要なのです。
■強烈な原体験を持つこと。
経営にしろ、購買にしろ、原体験こそが行動の源泉であると考えています。今から15年前の2000年夏。大学院生だった私は1枚のパンフレットに出会い、地域づくりインターンという国交省(旧国土庁)の事業で奈良県川上村へ行きました。そこは、紀の川・吉野川源流の村であり、吉野林業の発祥の地だったのです。自然資源の持続的循環利用の模範となるべく吉野林業の理想と現実を体感したのです。
当時、川上村は「全国そまびと選手権大会」という林業のイベントを行っていましたが、市場の開拓に直結せず、疲弊感が漂っておりました。林業は大事だ!地域の活性化を目指せ!というものの利益が続かない現実は厳しく、「利益なき理念は寝言」という言葉を心に訴えPR活動に邁進していたのです。
林業界は、より設計士・工務店、より消費者へ直接アピールすべきだと産地ツアー等の事業を行い、啓蒙活動を促進しておりました。林業ツアーから得た原体験は、木材への愛着が湧くのみならず、将来の顧客層へのリーチが可能となります。そして、いわゆる美しい森林づくりがあることで、木材のカスケード利用を真剣に考え、設計の新しいアイディアやコスト削減と技術力向上にもつながります。設計技術・大工技術の前に大切なこと、それは、その背景を知ること、文化を知ること、生きる意味を真剣に啓蒙していかねばならないのです。
■QCD+物語性
啓蒙が進み、設計士工務店が林業人と共にデザインと快適性を付加し、本質を捉え時流に合った住宅を創造する。その上で「原体験」と「ストーリー(物語性)」を出さねばと、国産材ビジネスは、その差別化に奮闘しました。さらに、点から面へ、面から面への広がりを繋ぐためには、どうすれば良いか。連携を組むほどに大事となるのは、製造業の基本三大要素である品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery)なのです。QCDの追求にかけて挑戦する山側の姿勢があるか否か。この基本に立ち返る必要性が見えてきたのです。私は、ここ10年、林業・木材業に特化した経営実践研究会(国産材ビジネススクール)を開いておりますが、このメンバーでは、乾燥方法の研究、自社企画、品質基準、情報発信について、追求を続けています。設計士・工務店にとって必要なQCDを明示化していくことから次の時代が見えてきたのです。
■国産材の第二世代の動きとして。
平成25年、先述の研究会メンバーが集って「clubプレミアム国産材」を名乗り、ジャパンホームショーへ共同出展しました。林業・製材業界が情報を発信し、木材産地の地域性をワインの産地のように仕立て、バイヤーにあたる木材流通店~設計・工務店に直接QCD+物語性をプレゼンしたのです。この試みは設計士・工務店の共感を呼び、確実に在来工法・無垢国産材の市場を点から面へと開拓していきました。
平成22,23年 産地共催交流セミナー(設計士・工務店と山側による面的連携を支援)
平成25年、Clubプレミアム国産材メンバーで、ジャパンホームショーへ出展
■目標林型と技術
連携や交流を支援する中で、林業と木造住宅が近づくもう一つのポイントに、目標林型という言葉があります。かつて天竜で、当時80歳の山主からこう言われました。「いい山っていうのは、山主のコンセプトがある山だ!」と。
よき素材を活かすか否かは本来、マーケットに対する嗅覚により変化していくものです。それは、元来の需要があった樽材から、次第に高級部材として需要と供給が変化していった吉野杉のように。森林の風景とは、実は大工の技術、木材を利用する側が作り上げているということ。反対に、大工の技術とは、森林の風景を作ることを目的にするからこそ持続的発展が可能だと分かることでしょう。お互いの技術を知り合うことで、技術的発展が進むのです。
目標林型の森林(木材)に近づけるためには、地域に合った間伐(間引き)が必要となりますが、設計者工務店に「大トロだけ欲しい、ホルモンだけが欲しい」と言わしめない川上~川下の良い関係とは何か。いくつかの事例を紹介したいと思います。
■長期伐採木と短期伐採木(大径木と小径木)間伐材を利用。
~その「規格」と「企画」~
連携に必要なポイントとは、長期的なビジョンの下、長伐期の高齢樹と短期伐採の低齢樹をバランスよく使うことです。また、顧客が原体験で林業を知る「企画」とQCDの一致を求める「規格」の両方が重要です。前者の企画は、接客サービス、文化歴史、林業の深みを知るということ。後者の規格とは、街の設計士・工務店と林業との距離が遠すぎることによって、相互に無防備な規格設計の駆け引きを打破することです。「規格」の明示化と「企画」の表出化により、技術力を担保する経営サポートが可能となります。マーケットインやプロダクトアウト等といいますが、林業と木造技術の発展には双方の情報共有が重要で、これによって両者のコスト削減と顧客獲得ができるのです。
製材・加工 |
林業・原木 |
地域/材種 |
規格(QCD) |
企画(物語性) |
|
一般材 小径木 (樹齢40-60年前後) |
象徴材 大径木 (樹齢100年以上) |
体験、学び、地域文化、食べ物 |
|||
影山木材㈱ |
㈱ソマウッド |
富士山麓 駿河桧 |
4面スリット管柱 |
大黒柱 |
木魂祭 (神事、伐採体験) |
川上産吉野材販売促進協同組合 |
吉野木材協同組合連合会 |
吉野・川上村 吉野杉 |
無節柱
|
平角/幅広フローリング |
伐採見学ツアー |
野地木材工業㈱ |
― |
熊野杉 |
一般主要材 |
うねうね |
熊野ツアー |
林友ハウス工業㈱ |
㈱柳沢林業 |
信州松本 落葉松 |
T&Tパネル [外壁用材] |
階段材(柾目) |
馬搬と里山体験 |
近隣協力 |
高野山 寺領森林組合 |
高野杉 高野檜 |
一般フローリング、柱 |
300年桧 (高野山中門) |
森林セラピー |
静岡県では、影山木材(株)(製材加工)が地元の新鋭林業会社、㈱ソマウッドと組み設計・工務店向けへ、施主が大黒柱を直接選び神事を行い、間近に伐採を見て購入するという企画(木魂祭)を実施しています。ここでの基本構造材は規格化された4面スリットの3.5-4寸の駿河桧で、管柱(小径木)約100本に対し、100年生の大黒柱1本という利用頻度です。
落葉松が多く植林されている信州エリアでは、㈱林友ハウス工業が、落葉松の50~60年生の材を利用し、T&Tパネル材という外壁材を規格化しました。この利用により間伐を促進し、いずれは樹齢100年の天然落葉松林を目標林型として管理しています。そして、大径木が育てば柾取りした階段材の製造が可能となるのです。これらは湘南地域の設計士・工務店のアイディアから規格化されました。現在この地域では、馬搬による出材や里山体験の企画化も充実しています。
野地木材工業㈱(三重県熊野地域)では、元々行っていた正角の品質基準強化に併せ、平角材の規格化を進めることで、設計連携の円滑化を実現しました。さらに、大径木化する杉材から木取りした30mm以上の浮造りフローリング材「うねうね」を商材として提供開始。一方、熊野文化を伝えるツアーは設計工務店から人気を評しています。
奈良県川上村においても、川上産吉野材販売促進協同組合と川上村役場が連携し、吉野地域の体験やツアーをはじめとしたPRを促進し、工務店の受注をサポートしています。一方、新たな規格材としては幅180mm長さ4mの新商品(幅広い)無垢フローリングを商品化し、工務店へ直受のうえ提供しています。
この平成27年、開創1200年を迎えた高野山では、1843年消失以来の再建となった中門は300年生の高野檜(高野霊木)が用いられました。総本山金剛峯寺が所有する山林は高野山寺領組合が管理し、一般材の直受体制を展開しています。霊験あらたかなる地を共に歩く、森林セラピー体験の企画も定期開催しており、是非ご参加いただきたいところです。
飛騨高山に拠点を据える株式会社井上工務店では、地域で大切に使われてきた飛騨五木を中心とした事業展開を行っています。これらはまさに、規格(QCD)と企画(物語性)の広がりによる、設計工務店の連携を点から面へと広げてきた事例であります。
■設計・工務店の経営支援も連携から始まる。
~技術を伝える→仕事を作る→子供(次世代)に継がせるために。~
仕事量がなくなれば技術がなくなるというのは、どの世界でも同じです。すなわち需要なきところに技術継承なし。技術の伝承には、師匠(技術)と仕事量(経営力)が必要なのです。技術のみがあっても伝わらない。ここで必要となるのが営業力や経営力なのです。だからこそ仕事(利益)の確保へと、事務屋である我々は裏方として整備を行っています。売れないものを売れるようにするマーケティングは要りません。ただし、森を知り、木を知り、家を知るということがぶつ切りにされて来た世界を、ビジネスとして連携させる。つまり、①オリジナルの設計や規格を確立すること ②原体験を重視した企画を実施し啓蒙すること ③そして、目標の森林に想いを馳せ林業をやり続けることなのです。
吉野林業中興の祖である土倉庄三郎は「利益の3分の1は国、3分の1は教育、3分の1は事業へ」と、自身の信条を掲げています。最近、林業側、工務店側が共に打合せを行っていた最中のこと、経営者がこのように語りました。「私の息子(中学生)に、この仕事、自信を持って継がせたいと思っている。」と、継承に込めた強い想い。これからの世代が次世代を生きていきたいものです。
=======================================================
古川 大輔 Daisuke Furukawa
株式会社古川ちいきの総合研究所 代表取締役 / コンサルタント
twitter: @daisukefurukawa
blog: 地域再生・森林再生コンサルタント日記
新潟県生れ、東京都町田市育ち。大学院時代、全国の農山村地域を巡り、研究の道を捨て博士課程中退。28歳で社会人に。㈱船井総合研究所主任、㈱アミタ持続可能経済研究所客員主任研究員、㈱トビムシを経て独立し、㈱古川ちいきの総合研究所を設立。船井総研時代に「地域ブランド創造チーム」設立。以後、地域ブランド創造を切り口に、地域再生、森林再生に携わる。㈱トビムシでは、ニシアワー(森の学校)設立前の支援、高野山・高野霊木のプロデュース、経営実践研究会の実施などを行い、全国の林業・木材業・地域づくりに関わる支援実績、講演多数。奈良県川上村観光PRかみせ大使、高野山 金剛峯寺境内案内人でもある。