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投稿日:2017/03/29

最近の林業&地域コンサルで思っていること。

 

【文章】

地域再生・森林再生コンサルタント日記 より

 

【著者】

古川 大輔 Daisuke Furukawa

株式会社古川ちいきの総合研究所 代表取締役 / コンサルタント

 

 

 

昨日(9/14)、兵庫県で「災害に強い森づくり推進大会」の基調講演をさせて頂きました。

県民緑税(森林税)の利用による、ボランティアからプロに渡る森づくりの事例発表があり、多面的機能の発揮と科学的データに基づいた検証もされており、私自身ももっと「森づくり」の実践をせねばと良い機会になりました。
それを受け、私は、生態系の多様性の為にはある程度の自然災害を是とする中程度攪乱説や、農業土木の大切さとして信玄堤を例にしつつ、歴史学、生態学から学びながら、その100年の災害も全て想定内として「災害と共に森で生きる(暮らす)知恵ある人づくり」という視点が肝要ではないかとし、著書「森ではたらく!」や「弊社の支援事例」を紹介しながら話をさせて頂きました。

その人づくりという視点で、最近思うに、全国の森林・林業ビジョン等の概要をよくみる見ると、その具体的プランにおいて、資源量や生産量、自給率や県産材シェアなどの数値しかなく、本来あるべくマーケットボリューム(市場規模)、シェア、売上目標、企業ベースでは、粗利率、労働分配率、雇用数、目標年収、といった基本がまったくなくて顧客不在現象があり、悲しくなることがあります。

 

 

もちろん信条は「理念なき利益は犯罪、利益なき理念は寝言」ですが、地方創生、地域づくり、地域活性化というものに関しても、同じく、指標を間違えてしまうケースが多いように思います。

余談ですが、全国の林業生産(原木)の市場規模は約2000億円。全国では戦後は昭和55年が一番儲かっていて1兆円産業でしたが、今は5分の1のボリュームになっています。ちなみに最盛期に対して、吉野地域は約10分の1、北山地域(床柱系)は約20分の1になっています。それでも、当社業界向けアンケートによると、特定1~2割のプレーヤーは顧客&新市場を伸ばしていますが、そういう方々は、ビジネスの基本に忠実ということと思います。

で、話戻りまして、やはり、事業者にとって、まず大事なのは顧客づくり、そして利益(特にこの業界では粗利)づくりであります。

 

 

利益に関していえば、だいだい、1000円のラーメンを500円の半額セールで売ったら、2倍を売らなきゃいけないって思ってる人が多すぎます。原価が400円だったら、本来600円の粗利が100円になるんだから、2倍じゃなくて6倍売らなきゃいけないんだ!っていう、経営の当たり前のことがわからない人が林政をつかさどってたりします。(もちろんキャンペーンとして将来の見込み顧客を増やすイベントだという半額セールだからよいというのは置いておきましょう。)

だから、指標を間違えてしまうのです。

 

 

先日も、弊社の研究会で、某県の林務職員の平均年収×人数を(あえて民間企業で雇うとしたら)どのくらいの林業・製材業の売上(あるいは材積)が必要かという計算をしたばかり。林業に掛かる行政職員は、①ひとつ準公務員としての林業という業務を行い計画経済のような動きをするか、②もうひとつ脱藩職員系には、ぜひとも早々に「ビジネス」にチャレンジしましょうと、ある方の言葉をつかえば「行政より公益性の高い株式会社」を作るのがいいと思います。

 

 

ある林業会社は30代で経験10年ほど、社員全員4~5名が年収400万、ほぼ補助金を使っていない。(条件をある限定的にしているが)、経営者いわく「どれだけ売れて、どれだけ経費が掛かるか計算して、仕事せい!赤字だったら山から帰ってくるな!」っていっている。これだけのことだという敏腕経営者。

で、私は数々の林業・製材業の企業のPL、BS等見せて頂く機会が多いのですが、広告宣伝費率はほぼゼロ。申し訳程度に年度決算する際に、2万円とか書いてあるくらい。さらに研修費・開発費も計画的な計上をしていない。補助金があってから開発しようっていうところが多い。どちらも、本来は得られるべく粗利から使うものです。

 

 

業界特有ですが、どの補助金を売上計上にするか雑収入計上にするかも、自社の経営計画ではその仕分けによって、未来の目標が変わります。私は補助金をある軸で3つに仕分し、経営計画に反映するという支援をしています。(ちなみに行政用語の森林経営計画とは違い、いわゆる一般的な企業の経営計画のことです。)だから、すべて補助金ありきであるといって進むと、市場から撤退すべくサービス力と技術力のないプレーヤーも過保護に残ってしまっていることも否めない。ゆえに、M&Aや営業権譲渡などをしていけばいいのですが、地域のビジネス習慣があると難しい。だったら、せめて屋号は残し、特段の受注力をもち、新たな流通システムを構築してあげて、その技術と誇りをつぶさない方法もありましょう。そうしているクライアントもおりますが、たいていは、座して死を待つのみという状況は、それにしてももったいないと思います。

 

 

戻って、利益。
吉野林業の中興の祖の土倉庄三郎は、利益の3分1は国に、3分の1は教育に、3分の1は事業にと、いう言葉を残されました。だけど、その前に、そもそも利益って何っ!?て状態が蔓延しています。だいたい毎月ATMに同じお金が入るのが当たり前だと思っている人では、理解は得られにくいと思いますが、コンセプトやビジョンがどうこう言うまえに、現場では、まず普通に「利益」を生み出す「経営」をすること。それがまず一歩。王道でいいんです。基本でいいんです。それができずで、せっかくの地域文化、伝統技術がなくなってしまう。大切な理念がなくなってしまう。悔しいことです。

 

 

これからの林業は、自伐、バイオマス、CLTだという人がいます。確かにそれもそうでしょう。しかし、それだけでない、どんな方法でもいい、どんな料理方法でもいいので、大事なのは「立地・規模・暖簾・商品・集客・アフター等」によって顧客に求められる、その自社の経営力です。それが、トータル林業、フリースタイル林業と思います。

最近は、同年代の経営者も増えていて、いわゆる以下の四則演算をすべてクリアしていて、利益を生み出し、またその利益を次の理念に向けて投資している事業者(仲間)も増えています。私自身も未熟でありますが、改めて、この次の10年戦う素地づくりが出来たらなと思っています。
<まとめ>
【林業四則演算】
(古い業界であれば、林業以外でも当てはまるんですが・・・)

 

Ⅰ.林業+α
林業(素材業)単体だけではなく、
顧客が喜ぶ、付加価値(潜在的ニーズ)をどう加えていくか。

 

Ⅱ.林業×β
林業という業種にこだわらず、
小売業、サービス業的な展開をし、
水平連携、垂直連携を掛け算できるかどうか。

 

Ⅲ.林業÷γ
経営力ということで分解できるかどうか。
商品(施業)力、集客力、営業力、組織力

そのなかで競合他社と比較し何を強化すべきか。

 

 

Ⅳ.林業-δ
どうしても取り除かなければならない
昔の商慣習や古い精神風土!

 

と、
昨日、私が兵庫県の講演で言いたかったのはこういう事でして、写真等でたくさんの事例をお見せしましたが、やっぱり「人」ですね。「経営」なんですね。そしてもちろん、一番大事なのは「安全性」ですけれどね。最近、製材関係で2か所も死亡事故の話をききました。社員の安全と家族の健康を願うことから、今日も明日も、よき未来に向けて改めて皆様ご指導ご鞭撻よろしくお願い致します。

 

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古川 大輔 Daisuke Furukawa

株式会社古川ちいきの総合研究所 代表取締役 / コンサルタント
twitter: @daisukefurukawa
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新潟県生れ、東京都町田市育ち。大学院時代、全国の農山村地域を巡り、研究の道を捨て博士課程中退。28歳で社会人に。㈱船井総合研究所主任、㈱アミタ持続可能経済研究所客員主任研究員、㈱トビムシを経て独立し、㈱古川ちいきの総合研究所を設立。船井総研時代に「地域ブランド創造チーム」設立。以後、地域ブランド創造を切り口に、地域再生、森林再生に携わる。㈱トビムシでは、ニシアワー(森の学校)設立前の支援、高野山・高野霊木のプロデュース、経営実践研究会の実施などを行い、全国の林業・木材業・地域づくりに関わる支援実績、講演多数。奈良県川上村観光PRかみせ大使、高野山 金剛峯寺境内案内人でもある。